仕事帰り、道を歩いていたらイチノセと名乗る男に声をかけられた。
人の目をちゃんと見て、はっきりとした声で話す、まだ30歳前後の若い男である。
男いわく、財布を盗られてお金がない。
なので200円貸して下さいという。
は??である。
この男、ホームレスにしか見えないのだ。
財布は盗られたであろうが、家まで盗られたわけではあるまい。
一体200円ぽっちで何を買うつもりであろうか?
200円で足りるのかと好奇心で聞いてみたが、戸惑った様子で返事はない。
激昂して刺されたら怖いので
周りに人がいるかを気にしながら男の話を聞いてみた。
自分は今はこんな風だけど、自営業をやっていて
これから必ず復活すると言う。
そしてよければ友達になってほしい旨をのたまった。
要は泊めてほしい、と言っているのであろう。
この男の無礼に苛立ちを感じた。
初めてのケースに、これは一体どういう現象なのかを考察することした。
この男、ホームレスにしては何かがちぐはぐなのである。
この男は、本当は普通に生活している人であるが、
何かの実験を試みているのであろうか?
人は一体いくらまでなら見ず知らずの人にお金をあげれるのか、
という実験か?
それとも、まだまだ豊かな日本で
ホームレスとして生き抜く知恵なるものを試しているのであろうか?
いや、実験なら大きな勘違いをしている。
ウソの前提に端を発したものは、所詮、ウソの結果、ということだ。
いずれにせよ、一つの結論に達した。
この男は、そもそも働く気などない、ということだ。
本気で復活する気ならば通りすがりの見ず知らずの人から
お金を借りる(乞う)ことはない。
少額の提示をするあたりがそもそも返す気のない証拠だ。
こうやって広く浅くお金を集めれば、上手くいけばその日は暮らせるであろうから。
この男は分かっていない。
小さなウソで人の好意を喰い物にし、お金を掠めていく度に
お金では測れない負債を負っていくことを。
日々のその行為が男の心と体を蝕んでいくことを。
この男は分かっていない。
本当に復活したい時には、もうこの男の中に何も残っていないことを。
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